『あんスタ』の1年ループ方式に衝撃を受けた話


※当然ではありますが、以下は個人の価値観によるゲームの感想です。

 

 『あんさんぶるスターズ』(以下『あんスタ』)というソーシャルゲームを、昨年11月末頃に始めた。配信から2年以上経過していたので未読のストーリーが多く、復刻イベントリストを見た瞬間に目眩を覚えたが、とにかくやってみようと思った。

 ゲームの存在自体は配信開始頃から知っていた。TwitterのRTなどでイベントやスカウトの告知を見かける度に、イラストがとても可愛いなと思って気にはなっていた。

 ただ、私がゲームコンテンツをほぼ遠ざけていたので、結局2年以上手を出していなかった。ゲームは技術面において苦手で、特に戦闘なんかをクリアしないと先に進められない作品はもどかしくて長続きしない。ストーリーを読みたいのに、技術が及ばずなかなかそれが叶わないことが何度となくあった。それでゲーム自体にあまり手を出さなくなった。


 ゲームに疎かった私が『あんスタ』に手を出したきっかけは、Twitterのとあるフォロワーさんが、私の大好きなアニメ(全200話いかないくらい)を勧めた時に全部観てくれたからだ。そのフォロワーさんが『あんスタ』を好きなことを知っていたので、私も恩返しとして自主的にプレイしてみることにした。

 『あんスタ』は作業ゲーと呼ばれているほどに操作が単純かつ一定なので、私でも早い段で慣れることが出来た。やっていくうちに特定のユニットやキャラクターを好きになり、本格的にハマり出した。


 さて、本題。4月になり、いよいよ噂に聞いていたリセットの時期が訪れた。

 『あんスタ』は、毎年4月にゲーム内の時系列が一年前に戻る。これはメインキャラクターが通う学院名に因んで『夢ノ咲リセット』などとも呼ばれているらしい。

 つまり、高校3年生のキャラクターは卒業関係のイベントを終えても『夢ノ咲リセット』によって一年前の4月に戻るので、ストーリーからいなくならない。進級したばかりの時期から、またイベントストーリーがスタートするのである。


 私はこれを非常に面白いと思った。一年かけて成長・進展を見せたキャラクター・人間関係がリセットされたり、やっと乗り越えた辛い時間軸がまた戻ってきたり、確かに見ていて辛い面もある。しかし、キャラクター達の未来を知りながら一年前の彼等の姿をまた違う側面から見ることが出来るのは、純粋に面白かった。

 例えば、朱桜司というキャラクターは友達を作るのが得意でなく、友達を作る気もなかった。ところが今年1月のイベントストーリーにて心境の変化があり、春川宙と友達になる。そして、これが同年4月の『夢ノ咲リセット』直後のイベントになると、朱桜司が春川宙を「友達じゃない」と断言するような状態に戻っている。彼等が友達になる未来を知っている私は、「今はこんなことを言っているけど、冬には友達になるんだぞ〜」とニヤニヤしながら春の彼等を眺めていた。そして、はっとした。この感覚を味わえるのは、このゲームの魅力の一つなのだと。


 ゲームに限らず、他のシリーズ作品でもリリース順が物語の時系列順になっていないことはよくある。しかし、これを決まった時期に決まった間隔で繰り返し行っている作品は、他に見たことがなかった。もちろん、この世にある全ての作品を把握しているわけではないので、もしかすると同じ方式を取っている作品はどこかしらに存在するのかもしれないが、それでも決して多くはないはず。


 『夢ノ咲リセット』は『サザエさん方式』と同じく、キャラクター達の年齢や学年を変えないまま同じ舞台で物語を続けていくために採用されているシステムなのだろう。けれど、この2つのループ方式は性質が明らかに異なっている。

 何故なら、前者はループの終始点が明確であり、公式もプレイヤーにその情報を公表している。4月になれば時間軸が戻ることを周知の事実として、ストーリーはまた季節に沿って動いていく。各イベントストーリーにはおおよその時期(『春』『一年前の春』など)が明記されており、プレイヤーはストーリーの時系列を己で整理して把握することが出来る。

 この点、後者はループの終始点が曖昧だ。そもそも『サザエさん方式』を取っている作品は大抵、日常系と呼ばれるコメディやギャグ作品。キャラクターの成長や事態の進展が、物語のメインとされていない(あくまで『メイン』ではないという話。作品によっては日常系でもキャラクターや人間関係は変わるが、コメディなんかの『要素』として取り扱われていることが多いと思う)。だから、ループの終始点がいつなのか特に把握する必要もないし、その概念すら存在しない。


 『あんスタ』ではキャラクター達がストーリーの中で成長して、時の流れと共に人間関係や環境も変わる。そして、それらが物語のメインとして描かれている。それにも関わらず、4月になると時間軸が容赦なく元に戻る。これが、もの凄く異端に思えた。

 昨年のバレンタインイベントでは『Ra*bits』『Knights』といったユニットが何をしていたか描き、翌年のバレンタインイベントでは同時期に『UNDEAD』『紅月』といったユニットが何をしていたのかを描く。『あんスタ』が取っているループ方式は、オムニバスにも似た特殊な構造なのである。

 これは、ソーシャルゲームだからこそ実現出来ているシステムだろう。一年というスパンで同じことを実施するのは、ゲームソフトや書籍あたりだとたぶん難しい。だからこそ、普段は書籍ばかりに手を出している私は、『夢ノ咲リセット』を目の当たりにして驚愕した。


 私の周りにいる『あんスタ』のユーザーは、長期ユーザーが多い。『夢ノ咲リセット』に慣れ切ってしまっているせいか、ネタにすることはあれど、このゲーム特有の魅力として語っている人を、今までに見たことがなかった。プレイを開始してから初めて教えてもらったシステムだったが、何かのきっかけで知っていれば興味本位からもっと早く始めていた可能性もある。

 『夢ノ咲リセット』は、人によっては辛く感じるシステムかもしれない。でも、私のように「面白い」と感じる人も多いかもしれない。このループ方式を取っている作品がごく少数(あるいは唯一)である以上、他にはない魅力として布教活動などにおいてもっと前面に打ち出していいと私は思う。


 ただ、残念なのは、様々な視点から同じ時間軸を描いていくことによりストーリーが複雑化し、若干の矛盾点(『若干』かどうかは人の価値観によるのだろうが)が生じていること。完璧に整合性の取れたストーリーとして描けていないこともあり、万人にとって『魅力』になるとは言い切れない。

 矛盾点の修正をするとストーリー全体の流れを変えてしまうものもあるため、これはもう取り返しがつかない。やってしまったものは仕方がない。ループをただ辛いと感じる人や矛盾を許せない人には、勧めたところで欠点にしかならない。だが、私のように矛盾に目を瞑って楽しめる人には、魅力として勧められるのではないか。

 本当に他の作品で採用されていない方式なのであれば『夢ノ咲リセット』か何かで特許を取ってほしいくらい、私個人はこのループ方式に魅了された。普段ゲームをしない、特にソーシャルゲームを敬遠していた私が、ソーシャルゲームならではのシステムに出会って感銘を受けた。魅力的だと思い、ひたすら好き勝手に書き殴りたくなった。これはそういう、自己満足の話だ。